「とかげ」の書評

ケンドル・スチュワート

 吉本バナナの「とかげ」という小説は、基本的に、失いとよみがえりについての話である。それに関する主題は死、暴力、宿命、恋、治り、時間などを含む。やはり、暗い話といえる。しかも、出来事や活動より、登場人物の会話や感想が大切である。
 会話の大切さによって、吉本バナナのスタイルは本当の会話の言い方を写そうとする。それで、体言止めなどをよくつかって、いわゆる「リアル」な印象を与える。逆に、その会話の話題は決して普通ではない。恋人である語り手ととかげと呼ばれる女はお互いに隠していた過去を告白し合う。
 二人それぞれの過去に、狂った人が暴力事件を起こした。とかげのお母さんは包丁で刺された。語り手のお母さんは夫の弟に犯されて語り手を産む。両方の場合に、突然に起こる暴力事件は家族を乱す。吉本バナナの言う「暗いエネルギー」のためであろう。とかげの家族の両親はちょっと気がおかしくなったし、とかげは彼女の呪いで犯人を殺したと思った。語り手のお母さんは、彼が5歳のときに自殺した。
 でも、とかげの才能のように、時間は治す力がある。夜に世がどんなに暗くても、昼が来る。やがて、とかげの家族はもう一度よくなって、とかげは死にたくない犯人を呪い殺したことを悔いるようになった。結局、語り手の人生は安定した。こんな二人がお互いを見つけたことを宿命だと語り手は思う。つきあって、失った人を恋する感じが時間によって、宿命によってよみがえった。
 とかげも語り手も特別な天職を見つけた。語り手は死に親しいから医者になった。とかげは彼女の悔いを消したり、自分を保ったりするために治療院を開いた。才能を使わなければならないととかげは言う。みんなが働かなければならないというプレシャーを受ける時代がこの話の背景であるかもしれない。でも、社会のためではなく、自分自身のためにしたらいいと作者は言っているのだろう。死とか悔いとか人生に起こった暗いことだけを考えまいとして人生を送るかぎり、時間がよみがえりをさせて治してくれる。今日の豊かな国で、多くの人にとって人生を送るというのは仕事と同じであるので、いい働きを探して自分を治そうとしたらいいと吉本バナナは伝えていると思う。
 僕は人間が何かしなければならないことには賛成だ。でも、仕事ではなくても、何でもいいと思う。旅行、芸術、気に入る活動をしないと、世の中にどこにもある苦しみ、悩みしか考えられなくて狂うかもしれない。